全窒素(T-N)とは
(1) 全窒素(T-N, Total Nitrogen)は、水中に含まれる有機性窒素、アンモニア性窒素、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素などを含む総窒素量を、通常は窒素量として mg/L で表す水質指標です。
(2) T-NはNO3-Nだけを意味する値ではありません。個々の窒素形態の定義と相互関係は nitrogen-compounds を原本とします。
T-Nの測定概念
(3) 現行の JIS K 0102-2:2022 は、工業用水・工場排水について有機体窒素、全窒素等の試験方法を規定しています。
(4) T-N測定では、窒素化合物を所定の前処理・分解等によって測定可能な形へそろえて総窒素量を求める方法などが用いられます。NO3-Nだけを測ってT-Nとする試験ではありません。
(5) 環境省の全窒素分析資料に示される代表的な紫外吸光光度法では、水酸化ナトリウム・ペルオキソ二硫酸カリウムによる加熱分解を行った後、紫外部の吸光度から定量する分析フローが示されています。
(6) 有機性N、NH4-N、NO2-N、NO3-N等の個別値を足すことは窒素収支を理解するうえで有用ですが、正式なT-N分析値は採用した全窒素試験法によって求めます。個別分析値の単純和とT-N分析値が常に完全一致すると決めつけません。
T-N除去率
(7) 流入T-N濃度を Cin、対応する放流T-N濃度を Cout とすると、濃度ベースのT-N除去率は (Cin − Cout) / Cin × 100(%) で求めます。
(8) 流入T-N 50 mg/L、放流T-N 20 mg/Lなら、濃度ベースのT-N除去率は (50−20)/50×100 = 60% です。
(9) 除去率の分母は流入T-Nです。放流T-Nを分母にしたり、単に濃度差の数値をそのまま百分率としたりしません。
(10) 放流T-Nが流入T-Nを上回れば、式上は負の除去率になり得ます。負値を機械的に0%へ丸めず、採水の対応、流入変動、内部蓄積・流出、測定誤差等を確認します。
濃度除去率と窒素負荷量
(11) 窒素負荷量は、外部流入・放流について概ね 流量×T-N濃度 で求めます。流量をm³/日、濃度をmg/Lで表すと、数値上の積はg-N/日になります。
(12) 流入・放流の流量がともに2.0 m³/日で、T-Nが50→20 mg/Lなら、流入負荷100 g-N/日、放流負荷40 g-N/日、除去量60 g-N/日となり、負荷ベースの除去率も60%です。
(13) 流入量と放流量が異なる条件では、濃度だけの除去率と負荷量ベースの除去率は一致しないことがあります。物質収支を評価するときは流量を含めて比較します。
(14) 短い評価期間では槽内への窒素の蓄積・放出もあり得るため、厳密な物質収支では流入負荷、放流負荷だけでなく、系内保有量の変化や汚泥としての系外排出も必要に応じて考慮します。
採水条件と比較の仕方
(15) 除去率には、同じ施設・評価期間を代表し、処理前後として比較可能な流入・放流データを用います。
(16) 浄化槽には滞留時間、流量調整、循環等があるため、同時刻に採った流入水と放流水が同じ水塊の処理前後を直接示すとは限りません。
(17) 単回値だけで処理性能全体を断定せず、採水時刻、使用状況、流量、前回値、工程水質、型式固有の維持管理条件と合わせて傾向を確認します。
硝化・脱窒とT-N収支
(18) 硝化はNH4-N等をNO2-N、NO3-Nへ酸化する形態変化であり、硝化だけではその窒素が水系外へ除去されたことを意味しません。
(19) 生物学的窒素除去では、硝化で生じたNO2-N・NO3-Nを無酸素条件で脱窒し、N2等の窒素ガスとして水系外へ移すことが主要なT-N除去経路です。
(20) 窒素は微生物・固形物へ取り込まれ、余剰汚泥や清掃汚泥として系外へ引き抜かれる分もあります。したがって、T-Nの物質収支を「脱窒ガスだけ」で完全に説明するとは限りません。
(21) 国土交通省の窒素収支資料でも、流入T-N負荷から、引抜窒素量、残存NOx-N、残存ケルダール態窒素等を分けて収支を整理し、脱窒量を差分として評価する考え方が示されています。
(22) 環境省の窒素除去型浄化槽維持管理ガイドラインは、好気性生物処理でBOD除去と硝化を行い、脱窒工程と処理水循環を組み合わせて窒素除去を行うとともに、流入汚水量・循環液量・工程水質を測定記録して運転状態を把握することを重視しています。
性能値との境界
(23) T-N濃度や除去率を認定性能・設計性能と比較するときは、その型式、適用条件、評価方法を確認します。特定のT-N値や除去率を全浄化槽共通の法定合否値へ一般化しません。
(24) 放流水質基準・認定性能・条例等の詳細な適用関係はWQ-031 effluent-standards-performance を原本とします。
試験での見分け方
- 「T-N=NO3-N」→ 誤り。T-Nは各窒素形態を含む総量です。
- 「50→20 mg/Lなら除去率30%」→ 誤り。濃度差30をそのまま%にせず、流入50を分母にするので60%です。
- 「濃度が半分なら流量に関係なく負荷量も必ず半分」→ 誤り。負荷量は流量×濃度です。
- 「硝化でNH4-NがNO3-NになればT-Nはその分だけ消える」→ 誤り。硝化は形態変化です。
- 「T-N除去は脱窒だけでしか起こらない」→ 過度な一般化です。脱窒は主要経路ですが、汚泥として系外へ移る窒素も収支に含まれます。
出典・参考(2026-08-31確認)
- 環境省 窒素除去型小型合併処理浄化槽、膜処理型合併処理浄化槽、中・大型合併処理浄化槽、単独処理浄化槽の維持管理ガイドラインについて
- 日本規格協会 JIS K 0102-2:2022
- 環境省「令和5年度環境測定分析」全窒素分析資料
- 国土交通省「栄養塩類の能動的運転管理の効果的な実施に向けたガイドライン(案)」
- 環境省 温室効果ガスインベントリ検討資料(窒素除去型浄化槽のT-N 50→20 mg/Lから60%を算定する例)
nitrogen-compounds(窒素形態の定義・硝化)ammonium-nitrogen-test(NH4-N簡易測定)
※WQ-017ではT-N測定概念、除去率、負荷収支を原本とする。比色・簡易試験一般はWQ-025、濃度×流量の単位計算一般はWQ-027、性能値・法的適用範囲はWQ-031で扱う。